借金返済

まえに住んでいた街に行ってなんやかやと用事を済ませてきた。その一つに珈琲代を立て替てもらっていた分の返済があった。
カウンター越しにマスターの奥さんにまずお金を返した。それから地元で有名なお菓子をお土産を差し出し、さっそくお菓子を開けてそれをおやつにお店のサービスの珈琲を飲みつつ即興お茶会を始めた。
奥さんは簡単にいうと読書家である。だいたいお店に着くとサービスの珈琲を飲みながら本の話をする、今回も例に漏れず本の話をした。
いくつか話があったがその一つはトルストイは金持ちだったが、ほんとうはプロレタリアのような清貧の生活をしたかったのにできなかったのは何故かという話であった。ユゴートルストイのもとを訪れて地所を見て「なんだ金持ちじゃん、これじゃプロレタリア文学は書けないね」というようなことを言ったらしい。
しかしトルストイはやりたくても何もかもをうっちゃって無産者になることは彼の律儀な性格からはできなかったと思う。というのも領主のいなくなった土地は統治機能が低下して荒れるからである。最近でも旧フランス系植民地の国で農地を独占していた入植フランス人を海外に追い出して、新たな土地の利権をめぐり以前は小作人だった人々が各民族に分かれて内紛が勃発するという例を目にした。トルストイとしては望まないにしても課せられて義務を履行せざるを得なかったのだろう。
ところで太宰も「晩年」の中で資産階級に生まれた自分が無産運動に参加する劣等感みたいなことを書いていた。トルストイと太宰はちょっと違う気もするが同じような悩みを持っていたので苦笑した。金持ちは金持ちで大変なのなのだな、と。